映画レビュー：インセプション

公開年：2010年

監督：クリストファー・ノーラン

ジャンル：S F／アクション／サスペンス

作品概要

『インセプション』は、クリストファー・ノーラン監督が描いた革新的なSFアクション映画で、夢の中に潜入し「他人の潜在意識」にアイデアを植え付けるという斬新な設定が話題を呼びました。主演はレオナルド・ディカプリオ。渡辺謙、ジョセフ・ゴードン＝レヴィット、エレン・ペイジ（現：エリオット・ペイジ）、マリオン・コティヤール、トム・ハーディと豪華なキャストが共演しています。「夢の中の夢」という多層構造の世界観と、緻密なストーリーテリング、そして圧倒的な映像表現で、公開から10年以上経った今でも多くの人を魅了し続けています。

あらすじ

主人公ドム・コブ（レオナルド・ディカプリオ）は、人の夢に入り込み、潜在意識の奥底から秘密を盗み出す「産業スパイ」。卓越した能力を持つ彼ですが、過去の出来事によって心に深い傷を負っており、家族と離れて生きざるを得ませんでした。

ある日、巨大企業の依頼主サイトー（渡辺謙）から、通常とは逆の依頼を持ちかけられます。それは「アイデアを盗む」のではなく、「相手の潜在意識にアイデアを植え付ける」＝“インセプション”という不可能とされる任務。成功すれば家族のもとに帰れると約束されたコブは、チームを組んでこの危険な任務に挑みます。

夢の階層を次々と下りながら、彼らは時間の感覚や現実との境界を失っていきます。果たして彼らは任務を成功させ、コブは愛する子どもたちのもとに戻ることができるのでしょうか――。

作品の魅力

『インセプション』の最大の魅力は、夢の中の世界を多層的に描いた独創的な設定です。夢の中では時間が現実よりも遅く流れるというルールや、夢の階層が深くなるごとに現実との距離が遠ざかるというアイデアが物語全体を支配しています。観客はその世界に没入し、まるで自分自身も夢の中で作戦を体験しているかのような感覚に陥ります。

また、アクションシーンの迫力も圧倒的です。重力が崩壊するホテルの廊下での格闘シーンや、雪山での銃撃戦は、現実と非現実の境界を巧みに融合させた名場面として語り継がれています。これらはCGに頼り切らず実際の撮影技術を駆使しており、映像のリアリティと迫力が群を抜いています。

さらに、コブの過去と妻マル（マリオン・コティヤール）との関係が物語に深みを与えています。「夢」と「記憶」の中で彼女が登場するたびに、コブの罪悪感と喪失感が描かれ、人間ドラマとしての厚みが増していきます。ただのSF映画にとどまらず、愛と喪失を描いた物語としても強い余韻を残します。

音楽について

音楽はハンス・ジマーが担当。彼の壮大かつ緊張感に満ちたスコアは、作品の象徴ともいえる存在です。特に「Time」は映画を象徴する名曲で、切なくも希望に満ちた旋律が観客の心に深く刻まれます。また、劇中で繰り返し使われるエディット・ピアフの「水に流して（Non, je ne regrette rien）」は、夢の階層を切り替えるトリガーとして機能し、物語と音楽が密接に結びついています。