公開年/監督/ジャンル
2016年/監督:ジェフ・ニコルズ/ジャンル:ドラマ/伝記
作品概要
『ラビング』は、1960年代アメリカ南部を舞台にして、異人種間結婚が犯罪とされた時代にただ「夫婦として静かに暮らしたい」と望んだリチャードとミルドレッド・ラビングの実話に基づく映画である。派手な法廷劇や政治的演説に重きを置くのではなく、日常の細部──寝具の匂い、草むらの光、子どもたちと交わす何気ない言葉──を丁寧に描くことで、人間の尊厳と愛の普遍性を浮かび上がらせる。監督ジェフ・ニコルズは、記録的事件の重みを過度に演出せず、むしろ「普通の生活」を通して不条理な差別の残酷さを際立たせる道を選んでいる。主演の二人が放つ静かな強さと、映画全体を包む穏やかな怒りが、この作品を深く胸に残るものとしている。
あらすじ
リチャードとミルドレッドは、平凡で穏やかな結婚生活を営む夫婦だった。しかし彼らが暮らすバージニア州では異人種間の結婚が違法とされていたため、ふたりは平穏な生活を求めて北へ移り住むという選択をする。やがて故郷に戻った二人は、地元警察に逮捕され、法的な壁に直面する。愛し合う二人にとって不可解で理不尽なその扱いは、やがてアメリカ最高裁判所へと発展する歴史的な訴訟へと繋がっていく。だが映画はその裁判のドラマ性よりも、裁判に巻き込まれながらも変わらぬ日常を守ろうとする夫婦の姿に視点を据える。二人の静かな願いはやがて国の記録に刻まれ、個人の生活が法を変える力になり得ることを示すことになる。
作品の魅力
本作の魅力は「声高に叫ぶことなく、淡々とした暮らしの中に正義を示す」表現にある。ミルドレッドとリチャードは、派手なヒーローでもなければ理想化された犠牲者でもない。彼らは息子や親族、近所の人々と過ごすごく普通の時間の中で、ただ一緒にいる権利を求める。映画はその「普通さ」を丁寧に描くことで、制度の暴力性をより深く観客に突きつける。主演のルース・ネッガ(ミルドレッド役)とジョエル・エドガートン(リチャード役)の演技は抑制に満ちており、言葉少なに互いを支え合う姿がスクリーンに静かな震えを生む。 さらに、監督は政治的ドラマを単純化せず、個人の感情と法的プロセスの間にあるズレを見事に描く。法廷の場面で語られるのは抽象的な権利論ではなく、「この夫婦の暮らしをなぜ奪うのか」という、もっと根源的な問いだ。映画はその問いを、窓から差し込む光や子どもの笑い声といった日常の符号で何度も反復する。観客はその積み重ねに、自身の感覚を揺さぶられ、いつの間にか静かな怒りと連帯感を抱くようになる。
音楽について
音楽は過度に感情を誘導することなく、物語のトーンをそっと支える役割を果たしている。繊細な弦楽や控えめなピアノの旋律が、ふたりの間に流れる時間の深みを描き、場面の余白を豊かにする。サウンドデザインは自然音を重視し、風の音やドアの軋み、子どもの声が、言葉にならない感情を運ぶ媒体になっている点が特筆に値する。音楽は決して劇的なクライマックスを演出しないが、その慎ましさが物語の信頼性と人間らしさを高める一因となっている。
こんな人におすすめ
- 静かで深いヒューマンドラマを好む人
- 法と日常の交差点に興味がある人
- 差別の構造を個人の視点から理解したい人
- 演技や風景描写で物語を味わいたい人
- 歴史的事件の人間味に触れたい人
まとめ
『ラビング』は、歴史的に重要な出来事を取り上げながらも、決して教科書的な叙述に陥らない。映画が見つめるのは法廷の判決ではなく、判決の裏にある「誰かの毎日」である。リチャードとミルドレッドは、権利の象徴として描かれるのではなく、生身の人間として私たちの前に立つ。彼らの静かな決意と淡い日常は、観客に多くを語りかける。法が変わるという偉大な潮流も、最初は誰かの暮らしの中で起きたささやかな抵抗から始まるのだということを、本作は静かに教えてくれる。観終わったあと、ふたりの名前が心の片隅で長く響く──それがこの映画が与える最大の贈り物である。
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