公開年/監督/ジャンル
2023年/監督:トラン・アン・ユン/ジャンル:ドラマ・ロマンス・グルメ
作品概要
『ポトフ』は、19世紀フランスの美食家ドダンと料理人ウージェニーの静かな愛を描いた、官能的でありながら瞑想的な映画だ。ミシュランやグルメガイド以前の時代、料理が芸術であり、人生そのものだった頃の精神を映し出す。セリフは少なく、火と湯気、香り、そして眼差しがすべてを語る。観る者はいつしか、スプーンを手にしたくなるほど深く、五感で物語に引き込まれていく。
あらすじ
19世紀末、フランスの田園に佇む館。食の芸術を極めた美食家ドダンと、彼に仕える料理人ウージェニーは、20年以上にわたり完璧な料理を共に作り続けてきた。互いに言葉では語らずとも、料理を通して深い信頼と愛情が通い合っていた。ある日、ドダンはウージェニーに結婚を申し込むが、彼女は首を縦に振らない。料理という芸術を媒介にした二人の関係は、もはや恋愛を超えた存在へと変わっていた。やがて病に倒れたウージェニーに、ドダンは自らの手で彼女のための“最後の料理”を作る——それは愛の形そのものだった。
作品の魅力
この映画の真髄は、「愛とは手を動かし、時間を費やし、相手のために創り出すもの」という哲学にある。美しい料理の数々は単なる食事ではなく、心の言語であり、祈りのような行為だ。映像は詩的で、火の音や包丁のリズム、煮込む湯気の立ち上る瞬間が、音楽のように心を包み込む。カメラはほとんど厨房から離れず、料理をするという“営み”そのものに寄り添うことで、観客を静かな陶酔へと導く。ウージェニーを演じるジュリエット・ビノシュは、セリフを超えて表情と手の所作で愛を語り、ベノワ・マジメルとの再共演による成熟したケミストリーが圧巻だ。
音楽について
音楽は極めて控えめで、沈黙が主旋律となっている。湯の沸騰音、風の音、ナイフの小さな音までもが楽譜の一部のように配置されており、観客は“音を聴く”というよりも“音を味わう”。わずかに挿入されるクラシカルな旋律が、人物たちの心の振幅をそっと照らす。まるで、時間そのものが音楽になったかのような静けさが印象的だ。
こんな人におすすめ
- 静かな映画で深い感情に浸りたい人
- 料理や芸術に“愛”を見出すタイプの人
- 映像美と演技で語る作品が好きな人
- ジュリエット・ビノシュの繊細な演技を堪能したい人
まとめ
『ポトフ』は、料理を通して愛の形を問い直す、まるで香り立つような映画だ。見終えたあとに残るのは満腹感ではなく、“誰かのために時間をかけて何かを作る”という尊い感覚。そこに言葉は要らない。ただ、湯気のように立ち上る想いが、観る者の心を優しく包み込む。トラン・アン・ユン監督の映像はまるで詩のようで、ビノシュの表情は光そのもの。愛と芸術の境界が溶けていく、この静かな傑作を、ぜひ味わってほしい。
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